野波浩
野波さんの展覧会は、紀伊國屋画廊。
地下のカレー屋さんで久しぶりにカレー。もう30年前に、凝りに凝ったことがあって、厨房を覗いて同じものを作ろうと、必死になっていた時期があった。
当時は、大缶入りのマギー・ブイヨンが手に入らず苦労した。小さいのでも良かろうに、大きいのでないと同じ味がでないと思い込んでいた。しゃぶしゃぶのルーは、大好きな「デリー」のカレーの感じに良く似ている。ビーフよりもポークがなぜかピッタリくる味は、どうにか真似ることができたと記憶しているが、味はどうだったのか。自己満足だったかもしれない。
『デリー』のカレーは、当時、テイクアウトを良くお土産にしていた。マンディアルグを訳していただいた、早稲田大学仏文学の品田一良さんにお持ちしたら、えらく評価されて、ではと早稲田大学の教職員専門の食堂で、品田さんのお気に入りをご馳走していただいた記憶がある。
マンディアルグ夫人の、『ボナバンチュール』の訳をお願いして、ペヨトル工房解散で果たせなかったのが、とても心残りだ。昨年の2月に亡くなられて、またまた約束をかなえられないまま、向こうの世界での仕事を残してしまった。本名は品田三和一良=しなだ・みわいちら。おそらくクリスチャン・ネームの当て字だと思われる。
マンディアルグは『海の百合』が好きです。と、話して大いに気に入られた。夜想創刊の頃、ただただ懐かしい。スムーズな訳でとてもダンディで素敵な文学者だった。突堤へ延びる湾の姿が綺麗なんだよね、と、千葉の秘密の避暑地をマンディアルグに登場する風景に準えていらした。幻想も耽美も、少し色合いを変えている平成時だが、野波浩さんの写真を見ていると、いやいや平成もまだ棄てたものではないでしょうと、品田さんに報告してみたくなる。なんとおっしゃるか。