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『透明人間』 H.G. ウェルズ

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原材料の値上げがかなり目に見えるところまで浸透してきた。

ポテトチップスの袋が小さくなったり、デニーズの飲み放題のハーブティーのハーブの量が減ったり。今夜は赤いハーブティを飲みながら。『透明人間』H.G. ウェルズを読む。相変わらずH.G. ウェルズは面白い。

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透明人間になれたら…という質問はよく出されるが、そういう感覚とまったくかけ離れているのが、H.G. ウェルズの『透明人間』だ。怪物化した科学者の苦悩と野望が描かれている。H・G・ウエルズは、科学知識の豊富さでSF作家と言われるが、物語の展開力は、小説家としても手腕がある。どういう科学的根拠で、透明人間になったかという種明かしを、最後の最後まで引っ張って明らかにしないが、それでいて前半部分を読ませる小説としてのプロットの良さがある。
最近、ヴィクトリア時代の小説を読むと、必ず古い映画を見るのを習慣にしている。
ストーカーの『ドラキュラ』でもそうなのだが、怪物もののユニバーサル・ピクチャーズでの映画化は、それ以降の、原作のイメージに大きな影響を与える。それは原作と少しかけ離れたところで存在している。

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映画の『透明人間』(1933)は、『フランケンシュタイン』(1931)を監督したジェームズ・ホエールが監督である。透明人間に婚約者は出てくるわ、透明人間になったのだから、強姦もできるぞ、なんてえ言っている。原作にはそんな下品なところはまったくない。透明になった状態がどうのこうの、という小説ではない。原作と異ることにいちいち目くじら立てるつもりはないけど、原作の方が圧倒的に良いし、わくわくしながら楽しむことができる。アメリカ映画ってやつは、と言いたいところだけれども、監督はきっすいの英国人。そして最後まで米国人にならなかった人である。

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『暁の総攻撃』の舞台演出で有名になったのを気にハリウッドに進出してきたホーエルは、イギリス労働者階級の出であるのを隠して、言葉つきから着るものまで、イギリス上流階級の出の振りをしていた。葉巻をさし出して、ちょっと切ってくれないか? などと言って、葉巻の切り方を知らない階級の人をからかったらしい。ちなみにヴィクトリア大好きの三島由紀夫も食後に葉巻をだして…というエピソードが残っている。ホエールは、『フランケンシュタインの花嫁』も撮っていて、ユニバーサル映画のホラー監督のエースなんだけど、数奇な晩年を送る。それはゴッドandモンスターに詳しい。