中川多理　Tari Nakagawa

中川多理

美しいままに美術になる。それは、たぶん結果のことだけれど。
昔､内藤礼も三上晴子も美術のカテゴリーに入っていなかった。ずっと変わらないままに作品をつくっていたのだけれど、向こうがよってきて中に呼び込んだ。きっと中川多理の人形もそうなるだろう。人形には､人形でありながらたとえば物語が入り込んだり、世界への思いが入り込んだりしているから、美術館の中に居ても人形はきっと何かを表出してくれるに違いない。

作品は、静かに変化している。いろいろな貌をもちはじめた。

2015年初夏。『物語の中の少女』展。
アンナ・カヴァン「氷」、マンディアルグ「子羊の血」の少女を作品化。
30年前、マンディアルグを読んだ時、兎は犠牲獣として少女と重なるという印象をもった。「海の百合」にもその形はある。読書は、ずっと孤独のアナロジーだと思っていたが、カフカをピアニストの手や演劇家の視線や作家の手触りで読むようになって、その手が女性であったらどうなんだろうかと、思い続けていた。
カフカ『田舎医者』の少女や少年ができあがってくるたびに、その人形のもつ少し冷ややかな風貌と、そして手触ると暖かみすら感じる対極に驚きを感じながら、中川多理がカフカに向かう知性と感覚が知れて、読書をともにしているような錯覚に陥る。
マンディアルグは長く愛読していた小説だが、だって「夜想」の創刊号はマンディアルグ＆ボナなのだから、女性の手になる、そして人形を介在してのマンディアルグ読みは、これから徐々にひらいていく悦楽になるだろう。
（今野裕一）