丸尾末広 books
『パノラマ島綺譚』 丸尾末広
猟奇に過ぎる、B級に過ぎる…のが江戸川乱歩の映像化だ。
昔のポルノはわざと汚らしい感じ、極彩色、下品というような、劣情を煽る傾向があった。江戸川乱歩の映像はどこかにそうした敢えて、B級、ちょっとチープという感覚で、猟奇を煽るところがあったのだと思う。
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丸尾末広は、煽る猟奇の感覚も掠めながら、少年的な美や残酷や能天気さに耽って『パノラマ島奇譚』を映像化した。丸尾は江戸川乱歩の文学としての『パノラマ島奇譚』をまっこうからコミック化している。猟奇を煽る部分はほとんどなくむしろ精緻な静けさすらある。ポーあたりを源泉にするパノラマ小説の流れを踏まえた拡がりと、それらに対する解釈も含まれている。これでは、丸尾末広に江戸川乱歩全集を作ってもらわないといけなくなる。
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丸尾末広の『パノラマ島綺譚』は、乱歩を原作としながら昭和耽美としての丸尾末広を付加している。ポーの『アルンハイムの地所』から人見広介が『RAの話』を書いたことになっていて、『パノラマ島奇譚』が、ポーを下敷きにしていることを取り込んでいる。江戸川乱歩の『パノラマ島奇譚』は、ポーの『アルンハイムの地所』や谷崎潤一郎の『金色の死』を下敷きにしている。翻案というかそれ以上の抜き取り方だ。パノラマの描き方が、作家それぞれの好みで変わっているという感じで物語の構造はポーのままだ。
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丸尾末広は、フィレンツェのフェデリコⅠ世のデミドフ庭園やボマルツォの怪物公園、ルートウィヒ2世の城、ベックリンの絵を持ち込んだりする。渋沢龍彦が昭和に紹介した幻想、耽美を取り入れている。丸尾末広の元々の資質としてもっている江戸川乱歩の世界が、融合してまさに夢見るパノラマが展開している。その風景をみるだけで『パノラマ島奇譚』を手に入れる価値がある。
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『パノラマ島奇譚』は江戸川乱歩が雑誌に連載していたときのタイトルで、単行本になるときに『パノラマ島奇談』になっていて、今は、その名前で流通している。
update2008/06/01