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『探偵小説40年』江戸川乱歩 1954年 

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『探偵小説40年』は江戸川乱歩の自伝に近いものである。
作家としてデューする前にこんなことを書いている。


  私はこの小説がポーの『アルンハイムの地所』や『ランドアの屋敷』の着想に酷似していることにすぐに気づき、ああ日本にもこういう作家がいたのか、これなら日本の小説だって好きになれるぞと、殆んど狂気したのであった。


この小説とは、谷崎潤一郎の『金色の死』である。世の中的には『金色の死』を使って『パノラマ島奇談』を書いたと言われている。谷崎潤一郎でもポーを下敷きにするのだから、自分ならもっと…と思ったのだろうか。そういう面もかなりあると思うが、むしろ自然主義全盛の中で、谷崎が幻想的な作品をポーに倣って書いたということに勇気づけられたのではないだろうか。

筋を流用するというのは、谷崎潤一郎がやる、やらないかかわらず普通に行われていたことなのだろう。乱歩は『探偵小説40年』にこうも書いている。


 ポーの短編のうちで、前々から使って見たいと思っていた筋が二つある。一つは『ポップ・フロッグ』もう一つは『スフィンクス』である。『スフィンクス』はいまだに扱いかねているけれども、『ポップ・フロッグ』の方は即ち『踊る一寸法師』である。翻案とか真似というには、少し離れすぎているが…


翻案とか真似ならもう少し似ていないと…と言外に言っている。大正14年の頃の小説は、海外有名小説の筋や設定をそのまま使うことは普通のことで隠すことでもなんでもなかったのだ。それは大文豪と言われている谷崎潤一郎にしてもそうであるし、世の中的にもそれが常識だったのだ。日本の小説はそこをベースに発展してきていると言って良い。オリジナルという感覚が薄い国なのだろうな。


update2008/05/19