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『ブックデザイン ミルキィ流』 毎日コミュニケーションズ
いま出版制作のシステムが変わって編集者はとまどっている。
みんなはそうではないかもしれないが、少なくとも僕は、そのことでちょっと困ったりしている。DTPをいち早く導入したのに使いこなせていない。そんな編集者たちを相手に、こうしたらいいんじゃないと、ミルキィ・イソベは語りかける。良い本を作ってきたデザイナーの考え方と生き様と気概がこの本に込められている。
本の現場では、アートディレクターの存在が不可欠になっている。そしてそのことでエディトリアル・デザイン、編集、制作が真摯にコラボレーションしないと、良い本ができなくなっている。
ミルキィ・イソベという20年以上、デザイン、編集、制作の現場で、身体をはって考えてきたデザイナーの軌跡は、素晴らしい本作りのノウハウであるとともに、大袈裟ではなく出版への警鐘にもなっている。今、出版は問題を積載したままよたよたと走っている。一方では儲ければいいじゃん、という乱暴な出版もまかり通っている。
そんな現状の中でも、それでも紙が好き、それでも本が好き!! と明るくポジテブな態度で仕事をしていくミルキィ・イソベに、どれだけ編集者たち、著者たちが元気づけられたことか。この本の中には、所謂、ノウハウに近い秘密がたくさん明かされている。明かした目的は一つ。真髄を明かすことによって、好きな紙が残ったり、良い編集者が育ったり、いろいろなことが、何か起きると思ってこの本は書かれている。未来を少し信じている本だ。少しでも未来を本気で信じている本は少ない。それだけでもこの本は価値がある。
良い本と書いたが、良い本というのは存在する。良い編集者も存在する。そしてもちろん良いデザイナーも。価値観あっての出版だ。美味しい食べ物という概念があるのと一緒で、良い本というのは存在するのだ。この本は、そんな本を作ろうとして奮闘してきたデザイナーの、手の証である。
こんなに本の中身のこと、著者のこと、編集者のこと、出版社のこと、読者のことを考えて本を作ってきた人は他にいないだろう。考えていますということを表明しながら、自分のやりたいことしかしないというよくあるあれ、とはまったく異る。本という物理、もの、そして流通してく「ぶつ」としての本の側から見ている。そしてその「ぶつ」に息吹を吹き込んでいく。作家の、編集者の…ときには印刷のディレクターの…。
デザインをするときに「敢えて」中味を読まず、「敢えて」ちょっとミスマッチな感じが良いよねなどというデザイナーはもの凄く多い。結局、いつもの自分のパターンに持ち込むためのトークなのだが。ミルキィさんのデザインはその対極にある。読んで、ポイントを掴んで…その掴んだところで揺るがないところが素敵だ。ああも読める、こうも読めるという感じではなく。これ!って決めたら、そこを中心にぐいぐい作っていく。でも編集さんとの関係で、変更するフレキシビリティもある。製作費の関係でできないこともたくさんあるから。そのミルキィさんの掴みがそんじょそこらの批評家より深いのが凄い。
update2008/05/16