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深水流 舞踊の会  坂東玉三郎 国立劇場

どめきをとれる踊り手 坂東玉三郎

しばし手踊りをした後、立ち上がる玉三郎に「どめき」が起こった。さもありなん、身体でも壊したかと思うほどにすらりと痩身になっている立ち姿に、ほぅと思わずため息がでる。
低く呻くような言葉にならない響き、そんなほんとうの「どめき」は久しぶりかもしれない。国立劇所の頃…以来? 玉三郎の踊りを面白くて追いかけてきたことがあった。ずいぶんと見てきた。もしモダンのダンサーだったらといつも思った。ちょっと日舞からははみ出していて、それを見るのがこよなく楽しかった。自分の懐に入れて解釈して踊る。そんな意志を感じることが良くあった。
たくさん見た中でもベストに近いかも知れない。いやベストかな。素踊りだったせいもあるが…。歌舞伎役者、素踊りは美しく凄みがある。それは昔、六代目菊五郎と藤間勘祖が、菊五郎に素踊りについて約束事を取り交わしたことがあるということを思い出した。何度か踊りの上手な歌舞伎役者の、浴衣での稽古を見せてもらったことがあるが、それは凄じいというほど素晴らしい。10㎏もある衣装を着ての想定なので、浴衣に身体を叩きつけるように、あるいはいっぱいいっぱいに外に込めて踊っておく。その時の踊りの潜在力というのは、歌舞伎の衣装を着けるとさすがに見えにくい。玉三郎の素踊りの良さは、そうした重い衣装から解放されて、軽く手や身体を振っても綺麗に決まるという逆の感じだった。少し首を振りぎみな、微妙に中心の決まらない感じが歌舞伎の舞台ではあるが、それがまったくぶれず、すっとしている。その軸がまっすぐすらっとしているところから、オーラがダイレクトに客席に向って放たれている感じがして、深く、深く見入ってしまった。

「どめき」が起きたのは、遊女が山姥になった瞬間を受け止めたからなのかもしれない。それにしてもとんでもないものを見せてもらった。

update2011/09/15